こんにちは。こばると(https://twitter.com/428sk1_guardian)です。
突然ですが皆さん、毎日食べるものって、どう決めていますか?
僕はこの春ひとり暮らしを始めたのですが、普段生活で困っているのが、「毎日毎日、飯の気分が決まらない」ということです。
僕は自炊能力が皆無なので、ほぼ毎食を外食で済ませるスポイル坊やなのですが、外食は自炊と違って食材や調理法の制約がない分、毎回無限の選択を迫られるわけですね。ところがこの選択がおっくうで仕方ありません。
例えば人とご飯を食べに行くときは、他の人の気分や、自分が知らない他の人の行きつけのお店でメニューを決める癖があります。
しかし、これは逆に自分一人だけで飯を食わないといけなくなった時に非常に困るんですね。
そこで最近、おなかが空いてどうしようもなくなったときは、信頼できる友人たちになにを食べればいいか相談することにしています。
〜信頼できる友人たち〜
- たぎょう(https://twitter.com/nei_145)
- みゃーこ(https://twitter.com/mya_Lolita)
- ういお(https://twitter.com/meshmesh_tk69)
全員TwitterのFFで、高校時代から知っている心優しい友人たちです。いつもありがとう。
持つべきものは友達ですね。
さて、今日も昼飯が食いたいけどなに食うか決まらない!作るのはめんどくさい!とゴネていたら、しびれを切らした友達にこんなことを言われてしまいました。
困りました。
「インターネットの人間に回転寿司の注文を任せてはいけない」、別名「回転寿司で安価の乱」といえば、「インターネットで顔と本名を晒してはいけない」「半年ROMれ」の次に有名な、小学生でも知っているネットマナーです。
とはいえ、好き嫌いがないといえども海鮮には目がないことで知られる僕です。久々の回転寿司。ひとりで、しかも他人に注文を握られた状態で行かなければならないという制約を考えても、少しだけ、ほんの少しだけ、行きたいと思ってしまいました。
しかし。本当に今日の食費をこんな、画面の向こうでニヤついている奴らの道楽に投じてしまっていいのか。いやしかし。ここひと月分の葛藤が脳内を駆け巡ります。
その結果。
来てしまいました。もうやだ。
ぼくの財布と胃袋の命運を握る注文方法については、友人たちとの度重なる協議と嘆願の結果、以下の通りレギュレーションを定めました。
〜通称「ダイス寿司」のルール〜
- 指定された時刻に、discordのチャット欄に全員(僕を含む4人)で「メニューにある、僕に食べさせたい(食べたい)品目」を同時に一つずつ発表する。
- 品目を指定するメニューは回転寿司チェーン「海鮮三崎港」のものに準じる。ただし、実際に注文する僕は未成年であるため、酒類は指定してはならない。
- 全員の食べさせたい(食べたい)品目が出揃ったら、discordのbotを使って「1d4」(1〜4の目がランダムに出る4面ダイス)を振る。
- 「1」が出たら僕、「2」が出たらたぎょう、「3」が出たらみゃーこ、「4」が出たらういおの選んだ品が注文される。
- 注文されたものは僕が責任を持って食べ切る。
自分で払って食べる回転寿司屋で、食べたいものが注文できないかもしれない……想像しただけで、『カイジ』さながらのスリルに身が震えます。これが、勝負というものでしょうか。
とか言ってたらひとり行方不明になりました。
せっかく今日の1食目でお腹がすいたので、無視してまずは3人で進め、注文の際のダイスは「1d3」を使用することにします。食べたいものを食べられる確率が上がりました。
1皿目
緊張のひと皿目。寿司のファーストインプレッションは大事ですから、まずは無難にサーモンを注文してみたいと思います。
さて、友人はなにを食べさせようとしてくるのでしょうか。
- サーモン(僕)
- リンゴジュース(たぎょう)
- 烏龍茶(みゃーこ)
なんと選択肢の2/3が飲み物という予想外の事態。ういおを待っている間、席についたままなにも食べずに待機していた僕としては拍子抜けでしたが、お茶をすすりながら運命のダイスを振ります。
果たして結果は…?
りんごジュースが出ました。家族にお寿司屋さんに連れてきてもらったちびっこがだだをこねて頼んでいるイメージしかありませんが、まあよしとしましょう。
蛇にそそのかされて「智恵の実」リンゴを食し、智恵を手に入れたアダムとイブが初めて知覚した感覚は、裸で過ごすことへの「恥」だったと言われます。会計用の皿に乗せられて運ばれてきたりんごジュースは、なんだか僕より先に恥を知っているような味がしました。
2皿目
さあ、りんごジュースを飲み終えて、そろそろ寿司が食べたくなってくるところです。大物・サーモンを取り逃してしまったので、ここは確実に取りに行くべく、めばちまぐろを選択します。
さて、友人たちの選択は…?
- めばちまぐろ(僕)
- オレンジジュース(たぎょう)
- オレンジジュース(みゃーこ)
りんごジュースの直後、2/3の確率でオレンジジュースを飲まされる狂気。僕は狂った算数の問題の登場人物にでもさせられてしまったのでしょうか。
"試されている"――その実感に、静かに血が躍ります。
果たして、ダイスの結果は…?
勝ちました。自分の投じた金で、自分の求めるものを得るという喜び。これが、ギャンブラーが賭けに生き続ける理由なのだという確かな確信に至ります。
正直、回転寿司に限ってはマグロよりサーモン派だったのですが、これをきっかけに改宗しようかという気さえしました。この時食べたマグロはこれまで人生で食べたマグロの中で一番だったと断言できます。
ところで、なぜ僕は回転寿司で自分の金でマグロを食べただけで罵倒されているのでしょうか。友人関係を見直した方がいいのかもしれません。
3皿目
まぐろを食べてテンションが上がってきました。少々ずるいですが、ここは先ほど頼めなかったサーモンのリベンジで、別メニュー扱いの生サーモン(少し高いサーモン)を狙ってみようと思います。勝ったらさらに張る、倍プッシュってやつです。これが勝負の基本だと、福本作品にも書いてありました。
- 生サーモン(僕)
- あなご一本にぎり(たぎょう)
- 烏龍茶(みゃーこ)
ひと皿一貫モノの高いメニューを頼ませようとしてくる輩と、ひたすら僕の腹をソフトドリンクで満たそうとしてくる輩。友人の本性が見えてきた気がします。
はたして3品めは…?
2連続の勝利です。これは完全にあれです、ツキが来ているというやつです。
今ならなんでもできる、風は俺に向いている――そんな幼い万能感のうちに、ちびっこも大好きな寿司ネタ・サーモンをありがたく貪ります。やはり回転寿司はマグロよりサーモン。
ついには自分に有利なサイの目が出ただけで、ガヤに癒着とまで騒がれる始末。できる勝負師は苦労するものですね。しかし、ダイスの女神は何人にも公平です。
4皿目
完全に流れが来ています。これは、まともな寿司を順番に食って帰れるかもしれない。脂身の多いネタがきたので、次は盤石の中堅、真いかに狙い目を定めます。
……ここまでは、普通においしいランチが食べられると、僕もそう思っていたのでした。
- 真いか(僕)
- カタラーナアイスブリュレ(たぎょう)
- 刺身5点盛り(みゃーこ)
刺身5点盛りといえば、1品で税抜750円という価格を誇る、海鮮三崎港のサイドメニューの中でもぶっちぎりの高額メニューです。かたや横文字の長いカタラーナアイスブリュレは、ひと口に言えばプリンケーキのような濃厚なスイーツメニュー。ここまでくればどんなボンクラにもわかる、彼らは僕のランチを確実に潰そうとしてきています。
しかし僕は諦めません。サイコロ賭博でさらなる借金地獄に這いずりこもうと地下収容所の班長グループに狙われたときのカイジも、正々堂々とこう言ってのけています。
何言ってやがるっ…! 細い目ギラギラさせやがって……!
満々じゃねえかっ…! 潰す気でっ…!
けど……悪いが…見誤ってるぜっ その押しっ……! 捨て銭だそれは…!
まだオレに目は出るはず…! あと一度くらいは…!
もう一度、あと一度だけ「1」が出ればいいのです。さあ、運命のダイスは――
4皿目:刺身5種盛り(税抜750円)
運命は非情です。目の前の景色が歪み、彼らのせせら笑う声が脳内を埋め尽くすように響いてきます。
しかし、僕は震える手で確かにタッチパネルを操作します。僕は逃げない。敗北が、その血の湧く悔しさが、勝負師を勝負に強くする。そのことを、僕の愛読書『賭博破戒録カイジ』が教えてくれます。
悔しい…!
悔しい…!
悔しいっ…!!
だがこれで良い!!
これだ…これでこそ博打……!「ギャンブル」なんだっ…!
忘れてた…この感覚…この悔しさ…憤り…血の逆流…!
ところが、ここで僕も予想だにしていなかった出来事が起きます。
注文を送信してからわかったことなのですが、刺身5種盛りに使われているホタテの在庫が、その日その店舗では運良く切れていたのです。
つまり………
品切れ、注文キャンセルです。
なんたる豪運、死に損ない。
かの『賭博破戒録カイジ』で、カイジが人喰いパチンコ「沼」にさまざまな奇策を施して立ち向かうも、万策尽き果て絶望した、その刹那。まさに偶然、カイジすら意図しなかったプレイ中のとあるアクシデントから、攻略の決定的糸口がやってきたように。
真の強者は、全てを手放したその瞬間にも、その勝負強さを発揮するのです。
5皿目
ここまでの事件に、僕もプレイスタイルを変えることにしました。彼らがあくまで僕の飯で遊ぼうというのなら、僕もとことん乗るまで。彼らを撹乱するため、ここで完璧に流れを無視して、とり唐揚げをチョイスします。
- とり唐揚げ(僕)
- わらびもち(たぎょう)
- オレンジジュース(みゃーこ)
だんだん彼らの手口が見えてきました。ひたすらデザートを食べさせようとするたぎょうと、ひたすら飲み物を飲ませようとするみゃーこ。手の内をこんな序盤で明かしてしまうあたりに、底の浅さがうかがえます。僕はこんな輩には負けません。
さあ、早速ダイスを振ってみましょう。
やはり和菓子はおいしいですね。わらびもちの甘さが、プレイスタイルを怒りに任せていた心持ちを鎮め、脳を研ぎ澄ませていきます。
モノを食べる時はね 誰にも邪魔されず
自由でなんというか 救われてなきゃあ ダメなんだ
独りで静かで 豊かで……
今の僕はもう、これまでの僕じゃない。
6皿目
気持ちが落ち着いてきました。ここはさらにほっこりと、茶碗蒸しで戦いの疲れを癒していこうかと思います。
無論その前に、ダイスで勝たなければいけないわけですが。
- 茶碗蒸し(僕)
- ぶどうジュース(たぎょう)
- メロンシャーベット(みゃーこ)
ソフトドリンクとデザート、二人のプレイスタイルが先ほどと入れ替わりました。1vs複数のハンデ戦だからなせる、汚い撹乱テクニックです。
僕は心の平穏を、手に入れなければならない。
また来てしまいました。皿の上に紙パックが乗せられた、このシュルレアリスムが。
いま僕の机には、飲みさしのリンゴジュースのパックと、未開封のぶどうジュース、そして熱いお茶があります。
ひとり用のカウンター席に、突如誕生したソフトドリンクの小宇宙。それは、創世記で神が作ったエデンの園のようでした。思えば、あのりんごジュースをふたりに唆されて飲んでしまったときから、ぼくの原罪は始まっていたのかもしれません。
7皿目
心の平穏がまたしても乱されました。酒を飲んだことはありませんが、「酒でも飲まないとやってられない」というのはまさにこういう気分を指す気がします。
ここで一杯かっ食らえたらいいのですが、ダイス寿司のレギュレーションでも日本国の法律でも飲酒は禁止されているので、せめてもの酒飲み気分を味わうために、今回は酒のアテっぽいあじのなめろうを狙いに行きます。
酒のアテが食べたい僕、とにかく高いネタを食べさせたいたぎょう、ぼくの胃を液体でぱんぱんにしたいみゃーこ。三者三様の思惑が交錯します。
ダイスの女神は、どの狂人に味方するのか。
机上のソフトドリンクが増えました。冷たい飲み物の暴力的な連鎖が、ゆっくりとしかし確実にぼくの体力と正常な判断力を削っていきます。
緑茶もすっかり冷めてしまいました。あたたかいものが飲みたい。
ところで、みなさんお気づきでしょうか。みゃーこが烏龍茶を選択するのは、これで3回目。彼はさらに、オレンジジュースも2回重ねて選択しています。
このままではまずい。同じメニューを個人が狙い撃ちし続けることができれば、特定の品だけを意図的に注文されやすくすることができてしまいます。
そのことにようやく気づいたぼくは、嘆願の末、ひとりが同じ品を複数回選択するのはナシ、という紳士協定をレギュレーションに加えさせることに成功しました。
これでようやく公平な勝負です。恨みっこなし。
8皿目
寒い。冷たい。なにか、あたたかいものを口に。その本能が昂じた僕は、気づけばサイドメニューからとっさに目についたたこ唐揚げを選択していました。同じ揚げ物の中でも、無秩序に腹を膨れさせにくるポテトフライを選ばなかっただけ、僕の理性はかろうじて働いていたのかもしれません。
なんと、何を思ったかここでみゃーこの手によってなめろうチャンスが再到来しました。対するたぎょうの生うに軍艦は、高いネタを無計画に食わせる算段でしょうが、案外にも好物なので悪い気はしません。
この企画史上はじめて、僕にとって当たりの3択。
どれが出てもそこそこ嬉しいですが、果たして――
ついにきました。なめろうです。
皿まで舐め尽くすほどうまいことからその名がついたとも言われる、元々は漁船で釣ったばかりの魚で作られた漁師料理。火を通したものは「さんが」とも呼ばれ親しまれます。
愛読書である『喰いタン』(寺沢大介)で読んで以来、一度は食べたいと思っていた酒のアテ。
もちろん未成年なので、烏龍茶で流し込みます。
どうやら味の濃い酒のアテをソフトドリンクと合わせるのが向こうにとっては立派な嫌がらせ作戦だったようですが、こちとら訓練されたソフドリ坊やです。一切お酒は飲めませんが、飯がうまい居酒屋を連れ回してくれる知り合いには事欠きません。
9皿目
ついにもうひとりの友人が現れました。ここから希望の品を注文できる確率はさらに下がっていきます。
ここは気合を入れ直さなければなりません。僕は寿司屋に来ている、ここへは寿司を食べにきた。そう自分に言い聞かせながら、フェア商品枠から普通に食べたい真子かれいを選択します。
- 真子かれい(僕)
- 玉子(たぎょう)
- フライドポテト(みゃーこ)
- 納豆巻き(ういお)
これまでの惨状に比べれば無難な4択に見えますが、ここへきて満腹へのファストパス・フライドポテトを選択するみゃーこの悪意がキラリと光ります。
ここからはそれぞれの品が選ばれる確率は1/4。さあ、4面ダイスの最初の選択は――
ここへきての納豆巻き。わざわざこんな無茶振り企画で食べるほどのものなのかと思うほど、無難すぎるチョイスです。さしたる感慨もなく、気づいたら写真に収めることも忘れて完食してしまっていました。これが禅の心なのかもしれません。
いつの間にか、友人たちのユーモアセンスも無の境地に至ってしまいました。これが日本の伝統芸能、ダイス寿司のなせる業です。
10皿目
悟りを開いてしまった僕の心に、心躍る寿司のときめきをもう一度。そんな思いを胸に、ここは大きく貝3貫盛りを選択します。
- 貝3貫盛り(僕)
- 「マヨコーンが真横ーン」とツイート(たぎょう)
- りんごジュース(みゃーこ)
- さば高菜巻き(ういお)
ルールが変わってきました。注文以外の行動を指定できるとは聞いていません。ぼくの抗議も虚しく、真横ーンツイートは取り下げられることなく選択肢に残っています。
こんなことをやらされては、僕の沽券に関わります。負けるわけにはいかない。
ソフドリの押し売りにやられました。写真の奥では空になった1杯目のりんごジュースが、悲しき運命を辿ってしまった同胞を憐れんでいます。
11皿目
まともな寿司が食いたい。そう哀しく叫び続けて何分が経ったでしょう。
ここは今までの負けを巻き返すべく、再び大きく軍艦3貫盛りで勝負に出ます。
- 軍艦3貫盛り(僕)
- サラダ軍艦3貫盛り(たぎょう)
- あさりの味噌汁(みゃーこ)
- あおさの味噌汁(ういお)
ここへきて1/2の確率で味噌汁を飲まされる鬼畜の所業。酔いを覚ませというのでしょうか。夢なら早く覚ましてほしいです。
新しい種類の飲み物が追加されました。あたたかいことだけが唯一の救いです。あとアサリは普通においしいので罪はないです。
ひとりで寿司屋の味噌汁を2杯も3杯も頼まされた日にはもう目もあてられません。
恐ろしい味噌汁ローラーの可能性を示唆されていますが、これは現代の警察では脅迫として立件してもらえないのでしょうか。
12皿目
飲み物が多すぎて精神が錯乱してきます。固形物が食べたい、その思考が脳内をぐるぐると巡ります。
その当時は気づいていなかったのですが、今見返すと、自分で言い出した「同一メニュー複数回指定」の禁忌を破り、2度目のたこ唐揚げを選択してしまっていました。でも、彼らが僕にしたことを考えれば、僕は悪くないと思います。僕は謝らない。
- たこ唐揚げ(僕)
- 三角いなり(たぎょう)
- いくら軍艦(みゃーこ)
- メロンシャーベット(ういお)
意外にも、ういお以外の二人はそこそこ良心のあるチョイスです。なんなら僕のたこ唐揚げよりまとも。
彼らもそろそろ良心がとがめてきたのでしょうか。しかし、勝負の途中で優しさを見せるのは勝負師として下の下。そこにつけ込んで、僕は無心にダイスを振ります。
いなり寿司と僕が不当な総ブーイングを受けています。動揺して、僕もとっさにいなり寿司をザコ呼ばわりしてしまいました。いなり寿司は僕を癒してくれるというのに。
いなり寿司がなかなか届かないので、先ほど届いたあさりの味噌汁をちびちびと食べ進めます。
13皿目
甘いおいなりさんがもうすぐ来るので、ここは玉子をはさんで正統派寿司ルートへの挽回を図ります。
来ました、みそ汁の悪意が。しかもまさかの具のあさり被り。他のふたりも、寿司ネタとイロモノメニューのギリギリの境界線を攻め続けることで、お前にまともな寿司は食わせないという確かな意思表示を突きつけてきます。
いずれにせよ、テンションの上がらない4択。しかしルールはルール、ダイスを振ります。
先ほど頼んだいなり寿司がちょうど届き、2皿に分けて盛られた助六コンボが完成しました。
14皿目
お腹がそろそろいっぱいになってきました。魚が、食べたい。長らく忘れていた感情が、逆流して喉元を焼く胃酸のように主張してきます。
海鮮を食べる。その決意を胸に、僕は海鮮極太巻きを選択します。
ひときわ光り輝く茶碗蒸しの救い。他方、残りの2人は無料サービスと「お会計」、どちらも注文ではない行為を指定してきました。
確率1/2の救いと、確率1/2のアウトローが混在しています。まさにライフ・オア・デス、運否天賦の博打です。果たして。
と思っていたら、
「終電、なくなっちゃったね」みたいなノリで恐ろしいことを言われています。
ルール上にないアウトローである「お会計」をあえて一度選択したことで、もう一度「お会計」が選ばれるまで帰さないことができるという、後出しジャンケンもいいところな乱暴な論理。これがルールを作る側、汚い大人のやり口です。
結局のところ、世の中は利用する側とされる側、2種類しかいないのだ。問題はその当たり前に、いつ気づくかだ
(『逆境無頼カイジ 破戒録編』より)
こう言わんばかりのみゃーこの蛮行。これに抵抗し打ち勝たなければ、僕の財布と胃袋の平穏はありません。
15皿目
思えば、ここまで後先のことを変に意識した皮算用で、その1回のチャンスを「置きに行く」選択が目立ちました。ちまちま賭けていてはダイスの女神は微笑みません。
ここは王道に戻って直球勝負、正直にメニューで目についた好物、ねぎまぐろ手巻きを選択します。
- ねぎまぐろ手巻き(僕)
- 馬刺し(たぎょう)
- さば高菜巻き(みゃーこ)
- お茶の粉末(ういお)
無料サービスと、海鮮でないイロモノ、そしてなんともコメントしがたい知らないメニュー。高菜巻きってなんだ。あと「お茶の粉末」はどうしろというんでしょうか。さすがに粉を直接吸引するのは、たとえ命令されてもごめんです。
さば高菜巻きを注文します。なんだこれは。僕たちのテンションも狂い始めています。
16皿目
高菜巻きを待つ間に次のラウンドに移ります。さばも高菜も失礼ながら少々味気なさそうなので、ここで脂の乗ったはまちを選択します。
- はまち(僕)
- トイレ(たぎょう)
- いわし高菜巻き(みゃーこ)
- ぶどうジュース(ういお)
はまち以外のまともな選択肢が、さらなる高菜巻きしかない絶望。彼らはぼくの胃袋よりも、膀胱を狙っているのでしょうか。
しかし、勝負師はどんな悪意にも逆境にもへこたれません。緊張の中、ダイスを振ります。
勝利しました。3皿目の生サーモン以来、実に13ラウンドぶりの勝利です。
身も肉厚で脂の濃厚なはまちは、勝利の美酒に酔いしれたい味がします。未成年ですが。
一方ダイスの女神は、ならず者たちの不当な讒言・誹謗中傷の嵐に遭っています。リコールまでされそうな始末。
3/16という統計を踏まえれば、きわめて妥当どころか理論値より低めの勝率だと思うのですが、えてしてギャンブルは正常な判断力を奪います。決して彼らが悪いのではないのです。「パチンコで台叩いてそう」とか言わないであげてください。
野武士のごとき引き際の悪さを見せています。徒党を組んでまで負けた人間のさえずりは見苦しいですね。
「帰らせろ」と言ったらいつの間にか貸しを作ったことになっています。驚くべき論理のすり替えです。
ところで、お気づきでしょうか。先ほど、しれっとはまちの前に、さば高菜巻きが届いていたことに。
また貸しを作ってしまいました。動物としての危機本能が、こいつらに貸しを作ったままではいけないと忠告してきます。
ゲーム延長という犠牲を払い、どうにか丸め込むことに成功しました。
が、
最後の最後まで油断なりません。ここまできて僕にテイクアウトの寿司の折り詰めを買わせて、彼らはなにがしたいんでしょうか。自分たちが食べられるわけでもないというのに。
テイクアウトは勘弁してもらい、延長戦を3ラウンドにすることで手を打ちました。最終決戦の幕開けです。
17皿目(延長戦〜1st Round〜)
以下、度重なる交渉の末に合意させるに至った、延長戦のルールです。
〜「ダイス寿司」延長戦ルール〜
- 延長戦は、全3ターンとする。
- 3ターンすべての注文が終わり、注文した品(パックジュースを除く)をすべて食べ切ったとき、僕はお会計をし、帰宅する。
- 第1・第2ターンで指定する選択肢は、海鮮三崎港メニューのサイドメニュー欄(酒類を除く)にある品目に限定する。ただし、サイドメニューのうち、自分が16皿目までにすでに選択した品を再度指定してもよい。
- 最終ターンで指定する選択肢は、「酒類禁止」以外のすべての制限を取り払い、自由に指定できるものとする。
- ただし、延長戦の3ターンの中で、自分がすでに指定した品を再度選択することはできない。
さあ、本当の勝負はここからです。これまでと違う、さらに熾烈で過酷な戦いになることでしょう。
まずは精神の落ち着きを取り戻すべく、6皿目で泣く泣く諦めた茶碗蒸しに再チャレンジします。
- 茶碗蒸し(僕)
- メロンシャーベット(たぎょう)
- あおさのみそ汁(みゃーこ)
- フライドポテト(ういお)
三者三様の悪意が渦巻いています。さらなる液体を飲ませようとする者、延長戦序盤のデザートで戦意喪失を図る者、そしてとにかくこちらの腹を満たそうとしてくる者。
でも僕はこんな汚い手には屈しません。勝負師は絶望ではなく、希望でもなく、ダイスに運命を委ねます。
メロンシャーベットです。僕は咽び泣きます。よりによっていちばん苦手な類のデザートが来てしまいました。
これは持論ですが、メロンは近代資本主義が産んだ、価値の幻想の結実です。ウリ科が身の丈にも合わずに頑張って無理くり甘くなったことで、ギャップがウケているのでしょうが、所詮は更生したヤンキーと同じ、マイナスがゼロになっただけのことです。みんな、マーケティングによって植え付けられたメロンの特別感に騙されているのです。
しかし、僕が泣いているのはメロンが苦手だからでも、延長戦序盤でデザートが来てしまった喪失感からでもありません。茶碗蒸しというあたたかな安寧を、今日僕はついに口にできずに帰る。その事実が、無残にも確定してしまったからです。
さよなら、茶碗蒸し。あなたは僕に、甘い夢を見せてくれました。
18皿目(延長戦〜2nd Round〜)
ところで、僕にメロンシャーベットを押し付けてきたたぎょうと僕には、甘い物をめぐって少々確執があります。
それは高2の夏、関西での修学旅行でのこと。HTBが誇る名作シリーズ『水曜どうでしょう』のファンだった僕たちは、各地でその県の銘菓を異常な量買って持ち寄り、その銘菓の早食い合戦をする名物企画、『対決列島』のオマージュ企画を決行しました。
伊勢の赤福20個、京都の生八ツ橋80枚。それはそれは過酷な戦いでしたが、なんとか僕のチームがたぎょうチームを2戦とも制します。
あとがなくなった彼は、あろうことか鹿せんべい40枚を奈良が誇る銘菓だと豪語してこちらに食わせようと差し向けてきたのです。結果的には、男子高校生が雁首を揃えて鹿せんべいを貪り食う惨状は免れましたが、
僕はあのことを忘れていません。ここが年貢の納め時です。
僕が延長戦2回戦に指定するのは、4皿目で彼が指定したカタラーナアイスブリュレ。あの時は序盤にデザートなぞと遠ざけていましたが、カタラーナのようなクリーム菓子は本来僕の大好物。ここらで大きく意趣返しと言ったところです。
さあ果たして、僕の安い挑発に焚き付けられた彼らは何を差し向けてくるのでしょうか。
- カタラーナアイスブリュレ(僕)
- オレンジジュース(たぎょう)
- りんごジュース(みゃーこ)
- ぶどうジュース(ういお)
異常事態です。ダイス寿司始まって有史以来の不祥事の匂いがします。ここにきて、メニューにあるパックジュース3種類を、かぶることなしに3つ全て指定してくるとは。絶対に認めることはできません。
抗議も虚しく、この場に存在しない3人の口調がチャット画面を越えて脳内でフラッシュバックします。めちゃくちゃ早口。きっと彼らの瞳孔は開ききっています。
こんな悪意に負けるわけにはいきません。賽の目で「1」を出しさえすれば、この3人を逆に笑い飛ばしながら、好物のカスタードに悠々とフォークを入れることができます。
乾坤一擲。すべての念を、このダイスに込めて。
現実は非情です。僕のカウンターの上に、ちょっとしたソフトドリンクコーナーができていきます。
こんなことがあっていいのでしょうか。
喧嘩を売って徒党に負けた、そんな僕をたぎょうがせせら笑います。
再戦の要求です。
ここから、泣いても笑っても次が最後の、延長戦ボーナスステージに突入します。
19皿目(延長戦〜Bonus Round〜)
ボーナスステージは僕に残された、最終戦前の最後の巻き返しのチャンス。不意にするわけにはいきません。ダイス寿司の提案者はもともと彼らでも、このボーナスステージだけは、再戦を提案した僕が主催者、僕がディーラー、僕がルールです。慎重にルールを提示します。
とはいえ、彼らが乗ってこなければこの勝負は終わりです。そこの公平感、ゲーム性は残さなければなりません。考えた結果、僕が提案したルールは次のようなものでした。
〜「ダイス寿司」延長戦ボーナスステージルール〜
さあ、彼らはこの中からどれを選ぶのでしょうか。僕はそろそろ締めということで、寿司ネタの中でもさっぱりする玉子を選択します。
- 玉子(僕)
- たくあん巻き(たぎょう)
- あおさのみそ汁(みゃーこ)
- あおさのみそ汁(ういお)
悪意の足並みを揃えるつもりが、ひとりだけスカシ方面にネタが逸れました。ネタになりそうでネタにもならない、ある意味この企画史上最悪のラインナップです。
ここはみそ汁で「おい!!!!!」と絶叫するか、玉子で平穏を取り戻すか、2択のどちらかで考えたいところです。
ここにきてたくあん巻きが当たってしまうミスマッチ。悪意チームの側からしても達成感のない、いちばん苦い展開です。ハッピーエンドでもバッドエンドでもない、ダイス寿司のトゥルーエンドともいうべき味がします。
このエンドを引いてしまった張本人には、ぜひとも弁明していただきたいものです。
弁明を聞きましたが、とても感化できるものではありませんでした。彼には後日、くら寿司でその罪を贖ってもらいます。
そうでもなければ、僕の失った社会的地位は浮かばれません。
20皿目(延長戦〜3rd and Final Round〜)
ついに20皿目。これで、本当に泣いても笑っても最後です。
思えば、今日一日だけでいろいろなものを失ってきました。
せめて最後は、甘く、美しく散る。そんな思いから、僕はいなり寿司を選択します。
友人たちも、選択します。僕に選ばせたい、それぞれの終わり方を。
さすが、ルール無用の最終試合。それぞれの思うズル・悪意が顕現しています。なんでもいいと言ったからって、まさか最後の最後に注文以外の指示が選択肢としてくるとは予想していませんでした。
他の選択肢も、最後の注文としては気分の乗らないものばかり。今度こそ、「1」を出して有終の美を飾りたいものです。
なめろうです。口のなかがねばねばします。
成人したとして、彼らとは金をもらっても飲みに行きたくありません。
戦いの終わりに
長い戦いが終わりました。今日の僕の一日は昼飯に始まり昼飯に終わります。
のべ2時間に渡る戦いを経て、食べたいものが食べられたのは20品中わずか3品。
〜戦いの記録〜
- りんごジュース
- めばちまぐろ
- 生サーモン
- 刺身5点盛り(品切れ)
- わらび餅
- ぶどうジュース
- 烏龍茶
- あじのなめろう
- 納豆巻き
- りんごジュース
- あさりのみそ汁
- 三角いなり
- かっぱ巻き
- ガリ
- さば高菜巻き
- はまち
- メロンシャーベット
- ぶどうジュース
- たくあん巻き
- あじのなめろう
こちらがレシートです。
一日の昼飯に3000円を費やす暴挙。なぜ僕はこんな道楽に付き合ってしまったのでしょうか。2時間前の自分を殴り倒して、ついでに口にチキンクリスプでもねじこんで黙らせてやりたい気持ちです。
誰か、いいバイトを紹介してください。さようなら。