【前回のダイス寿司はこちら】
~11月某日~
「ふむ…」
秋風の冷たい日だった。都会の喧騒にまみれたここ東京・渋谷でも、暮れていく季節の足音がやはり忍び寄る。
土曜日の一時限目に対面での授業が入っているのは少し癪だったが、そのかわりこうして11時頃に大学を出れば、ビルの隙間に差し込むやわらかな陽光を感じることができるのは満更でもなかった。午後には特に予定もない。
「寿司、食べたいな…」
何故そう思ったかはわからない。ふと思いつくとはこういうことを言うのだろう。
確かにそろそろ昼餉の時間だった。下駄に乗ってつやつやと光る握り寿司一式の映像がサブリミナル的に浮かびそして消えたときにはしかし、私、たぎょう(@nei_145)はもうかなり寿司の気分になっていた。
寿司。
それは日本人の心である。
それは米飯と、新鮮な魚介類を中心に構成される。鮪、鮭などは言うに及ばず、鰹、鰯、鯵、鰤、鯖、小肌などの光物、帆立や赤貝、つぶ貝といった貝類、烏賊に蛸、鰻に穴子、海老に蟹、果てはキュウリやタマゴに至るまで様々な食材が選択される。
それは酢を混ぜた一口大の米飯___俗にシャリと呼称される___に、前述のような食材___同じくネタと呼称される___を乗せ、仕上げに指で軽く締めたものを完成として饗される。また摂食の直前には別皿に用意された醤油を摂食者が使用することで、味覚としても完成を見る。
それは千年以上の歴史を有する、まさしく伝統料理___Traditional Dish___である。奈良時代には既にその存在が文献によって示され、平安期には諸国からの貢納品の中に鮨の語が確認される。この時代の鮨は発酵により酸味を得るなれずしと呼ばれる種類のものだったが、時代が下るにつれ発酵期間が短くなり、ついには発酵させずに酢により酸味を得るものが誕生することとなる。
それは江戸の後期において、我々のよく知る握り寿司の形態を取り広まった。握り寿司は誕生するやいなや時の江戸っ子たちに持て囃され、江戸の末期にあって定着を見、その後戦前にかけて全国的に広まった。戦後は衛生的観点から廉価な屋台店の多くは廃止され、握り寿司は高級料理としての部類の一角を占めるようになった。
それは戦後にあってはまた、日本の伝統食の代表として世界的にも広がりを見せた。初めは現地の日本料理店によって饗されるに過ぎなかった寿司は、ロサンゼルスでのブームを機に一気に認知を広め、その後の日本食ブームの鏑矢となった。寿司を提供する日本料理店も増加し、カリフォルニアロールを始めとした様々なアレンジ・創作寿司が現地の人々により楽しまれるようになった。
そして、現代日本にあってそれは___新たに「回転寿司」というスタイルを獲得することとなった。
店内のテーブルやカウンター、席という席を舐め回すようにくねくねと配置されたベルトコンベアにまず驚かされるこの形態は、なんとその上に寿司が乗り運ばれてくるというエンタメ性を伴って我々の前に顕現する。従来においては板前と呼ばれる寿司握り職人に一貫一貫注文するものであった寿司屋は、この革命的な店内設計によりオートマチック的わかりやすさと手軽さを兼ね備えた庶民的性質をここに獲得した。寿司自体も廉価での提供を可能にし、一般市民のリーズナブルな娯楽的外食としての回転寿司という業態が、全国的な広がりを見せたのである。
ここに、寿司が___日本の伝統であり、日本人の心たる寿司が___まさに汎市民的嗜好品としての新たな価値を獲得し、そして世界へと広められていく、その歴史的栄光が形づくられたのだった___。
「ふむ…」
悪くない。オンライン授業で平日は家に閉じ込められ、こうしてたまの休日に街へ繰り出してきた平凡な大学生の、孤独でささやかな贅沢としてはちょうど相場だろう。
決めた。昼食は回転寿司だ。
その旨を仲間内のDiscordサーバーに流すと、たちまち一人から反応があった。返してきたのは、こばると(@428sk1_guardian)。聞けば今から私のところへ来て、ともに寿司を食うという。一人おとなしく食すつもりだったので少々困惑したが、まあいいだろう。友人と和気藹々囲む食卓もまた一興というものだ。
待ち合わせには何とか成功した。久しぶりに会ったこばるとは、何故か妙にニヤニヤと上機嫌な風に見える。もしかしたら僕と昼餉を共にできるのがそれほど嬉しいのかもしれない。そう思うと悪い気はしなかった。
さて、回転寿司にも色々ある。どこにしようか迷ったが、今回は「くら寿司」に決めた。豊富なメニュー、リーズナブルな価格、困らない店舗数。大学生が二人で行くにはちょうど良いところだ。
来た。見慣れた光景だ。
さっそく席に着き、タッチパネルを手に取る。最初の寿司は何にしよう。やはりここは王道のマグロか、あるいは光物にいくか。貝類か、それとも最初から味噌汁でも頼んでしまうのもアリだな、などと考えていると突然、向かいの席のこばるとに制止された。
さっきにも増してやたらニヤニヤしている。意図が掴めない。
手許のスマホからDiscordを開け、と指示された。言われた通りに開くと、そこには既に何人もの悪友が集結しており、何やら相談をしている。そして僕がオンラインとなったのに気付くと、___満を持したかのようにして、次の文言が流れてきた。
「ダイス寿司第二回、始めます」
ha?
犠牲者
- たぎょう(@nei_145)
加害者
- こばると(@428sk1_guardian)
- みゃーこ(@mya_Lolita)
- ういお(@meshmesh_tk69)
- haxibami(@haxibami)
- ???(@???)
「ダイス寿司」ルール
- 指定された時刻に、Discordのチャット欄にて「たぎょうに食べさせたいメニュー」を一人一つ(たぎょうを含む)、一斉に発表する。
- Discordのbotを使い、たぎょうがダイスを振る。予め各々に番号を当てておき、出た目の人間の選んだメニューをたぎょうが注文する。
- 酒の注文、および同一メニューの連投は禁止。
- ゲーム終了はたぎょうの満腹度合いに準ずる。満腹を感じたら残り3ターンを宣言すること。
- 何があろうと、責任を持って食べ切る。
1皿目
マジで聞いてない。助けてくれ。
目の前の友人にそう訴えかけたが薄気味悪い笑いが返ってくるだけだった。前回の報復、もとい復讐のつもりだろうか。とはいえ前回のこばるとは3人、ないし4人でのダイスだったのに対し、今回の僕は5人と明らかに地獄度が上がっている。2013年の流行語大賞の一角が頭をよぎった。どうやらもう、やるしかないらしい。
若干一名をよそに番号が振られる。
- たぎょう - 1
- こばると - 2
- みゃーこ - 3
- ういお - 4
- haxibami - 5
ここまできたらやるしかない。まずは普通に食べたいさっぱりしたメニューをということで、ゆず塩かつおたたきをチョイス。他の4人はどう出るだろうか。
さっそく寿司が半数を割った。これだから嫌なんだ。
さっぱりした寿司を注文しようとする私を尻目に、初手から揚げ物を食らわせようとするういお。小手調べとばかりにデザートをぶん投げてくるこばると。未知の飲み物を提示してくるみゃーこ。悪意のバーゲンセールが開幕している。
もはや後には引けない。今日の昼餉の出だしを飾る、第一ランナーを決めるダイスが今、チャット上で振られる。果たして…?
出汁が出た。
1皿目から出汁が出た。寿司を食いに寿司屋に来、寿司を注文しようとして止められダイスを振らされ、これからの幸福な食事の時間の幕開けを知らせる鐘の音と言わんばかりに、威風堂々として出汁が出た。
出汁。くら寿司最強にして、最大の深遠であり、謎のメニュー。以前からその存在は知りつつも頼む機会のないままに過ごした平穏な日々、その安寧を打ち破るかのようにして、出汁はいまここに、みゃーこの手によって君臨した。
先程まで渋谷の路上で思い描いた、あの幸せな寿司はもはやどこにもない。一週間の疲労をかこちつつ、赴くままにつまむ寿司はどこにもないのだ。あるのはただ一杯の出汁、出汁だけだ。
呆然とする私をよそに、こばるとは自分の食べたいメニューを悠々と探す。
「あ、えんがわ来た。食べよ」
こばるとは慣れた手つきで皿を手に取ると、あっけにとられる私の目の前で躊躇なく寿司を口に放り込んだ。嘘だろお前。
「いやあうまい。たぎょう君、寿司ってうまいね、ありがとう誘ってくれて」
間違いない。奴ははじめからこれが目的だったのだ。復讐の旗の下に、他人のささやかな昼食の喜びを徒党を組んで完全破壊し、その眼前で全く同じものを悠々と享受する___その暗い愉悦だけを目標に、あたかも善良な友人であるかのような顔で人の寿司についてきたのだ。あまりの怒りに気が狂うかと思ったその瞬間、机の上のタッチパネルがピコンピコンと音を立てる。それとともに、一段上のレーンから何かが高速で疾走してきた。
出汁が来た。
1皿目から出汁が来た。人の昼餉を滅茶苦茶にしてやろうと投げつけられた有象無象、魑魅魍魎の悪意、その中からダイスの出目をかいくぐり、この手に届く最初の悪意としてこの後に続く全ての悪意を祝福するかのように悠然と、余裕綽々として出汁が来た。
出汁。魚介のいい香りが食欲をそそる。手に取るとほんのり暖かく、先程まで北風にあてられ冷えた身体に血の巡る感覚が蘇る。でも寿司ではない。改めてパッケージに目を向けると落ち着いたデザインはどこか品のいいカフェのような高級感を感じさせ、ほっと一息を入れたくなる。でも寿司ではない。
まともな昼食は望めない___2皿目へと楽しそうに手を出すこばるとを見ながら、ようやくそう理解した。出汁はおいしかった。
2皿目
いきなり散々な目に遭った。
続く2皿目はどうするか、少し考える。自分の食べたいものの出る確率がせいぜい1/5でしかない以上、好きな寿司ネタを徒に消費してしまうのは忍びないとの考えが頭をよぎる。ここはあえて自分も、食べたことのないネタに挑戦してみるのはどうだろう。
そう考えた私は、くら寿司には昔からあるがこれまで見向きもしてこなかった「イベリコ豚の大トロ」を注文してみることにした。
2. お出汁 たこ焼き(こばると)
3. お出汁 たこ焼き(みゃーこ)
4. えびかにマウンテン(ういお)
5. ハンバーグ(haxibami)
まともな寿司が消えた。今回に関しては自分も悪いけど。
「お出汁 たこ焼き」とは、お吸い物の中にたこ焼きが入っているとかいう関西の小学生が悪ふざけで作ったとしか思えないメニュー。それを2人がチョイスしている辺りは明らかに先程のくら出汁に味を占めている。それに加えて肉2人、唯一の魚介枠も「えびかにマウンテン」とかいう子供向け遊具みたいな名前の何か。方向性は違えど、全員が何かしらの形で「ガキ」を表現する予想外の展開にもつれ込んだ。
果たしてダイスの赴くのは…?
ここへ来てまさかの一発ツモ。
こんなところで運を消費してしまうのは少々怖くもあったが、引き当てたものは引き当てたもの。ここはイベリコ豚を美味しく頂くこととする。
来た。
うまい。少々脂身が多すぎるような気もするが、肉の旨みを感じる。なによりシャリの上に乗っていることが、「俺は今寿司屋にいるのだ」という確かな実感を与えてくれる。何を食わされるか分かったものではない身にあって、確かに地に足のついた感覚を与えてくれる一皿だった。
少し元気になった。次に行こう。
3皿目
先程のイベリコで調子に乗った私は、ここではオーソドックスに、純粋な好物をチョイスすることとした。二連続で引き当てられ、しかも寿司を楽しまれたとあれば、奴らに再起の機会は無いだろう。ここはねぎまぐろ、君の出番だ。
さあ、悪友たちのチョイスは…?
一人消えた。えっ?
各々の悪意の傾向が見えてきた。ひたすら揚げ物をプッシュするういお、ひたすら謎の飲み物を推すみゃーこに、色物枠こばると。誰に捕まっても地獄を見そうである。
ちなみにみゃーこの推している「炭治郎ver.」とやらは、言うまでもなく国民的コンテンツ「鬼滅の刃」の竈門炭治郎を指すメニューである。このときくら寿司は鬼滅の刃とコラボしており、びっくらポン以下多くのコンテンツが鬼滅の刃一色になっていたのだった。
時間が経ってもhaxibamiは現れなかったため、4択で続行することとなった。これはチャンス。是非ともねぎまぐろを引き当て、この悪人どもに止めを刺していきたいところ。どうなる…?
?????
なにこれ。聞いたことのないメニューが出てきた。
「寿司」と入っている以上は酢飯の上に何らかのネタの乗ったものが出てくることはほぼ間違いないと思われるのだが、肝心のネタが「チェダーチーズ天」とかいうアメリカのデブの渾名みたいなセンスの物体らしい。ここへ来て寿司以前の問題に頭を悩まされるとは思わなかった。なんだよチェダーチーズ天って、ここは創作居酒屋じゃねえぞ。
可とも不可ともつかない謎メニューに、どう反応すればよいのか分からなくなる。
一人残らず評価に困っている。そういうところだぞこばると、そう言おうとして当人の顔を見るとやけに自信満々である。え、本当に大丈夫…?
問題のチェダーチーズ天寿司は、ほどなくして運ばれてきた。
うん。まあそうだろうな。これでそれ以外の見た目の物体が来たらどうしようか本当に悩んだ。
とはいえ肝心なのはその味である。チーズ×天ぷら×寿司とかいう挑戦的な組み合わせをわざわざメニューに掲げている以上、そこにはまだ我々の知らない、素晴らしいマリアージュが息をひそめて待っているのだろう。
だとすれば今、その正体を暴いてやるのみ。座して待つべしチェダ天寿司、いざ尋常に勝負…!!
what?
笑っちゃった。天ぷらとチェダーチーズと酢飯の味が、一切の調和なくただ別々にする。
この時の僕はたぶんリアルに宇宙猫みたいな顔をしていたと思う。カレーとラーメンとチャーハンをいっぺんに口に放り込んだときのことを想像してみてほしい。あれと大体変わらん。味の種類が変わるだけ。デブの小学五年生をそのまま濃縮した味。味覚で楽しむとしまえん。あるいは浅草花やしき。
ひとしきり爆笑してから、くら寿司というフィールドの真の恐ろしさがじわりじわりと発揮されつつあることに気付き、ぞっとする。
もうお分かりだろう。正統派寿司屋だった前回の海鮮三崎港に比べて、寿司の、そして寿司屋の定義を根本からひっくり返すような狂気のメニューが圧倒的に多いのだ。
冷静に考えてイベリコ豚とかハンバーグの時点で寿司とは何か問い質したくなるところだが、くら寿司はそこでは終わらない。くら寿司はチェダーチーズを天ぷらにし、それを酢飯に乗せた挙句、あまつさえ臆することなく堂々「これは寿司だ」と言い放った。
それだけのことをするのだ、そのチェダ天寿司はさぞ美味かろうと思いきや、普通にバカの味しかしない始末。明らかに顧客を弄び、それでいて平然と「普通の寿司屋ですが何か?」みたいな澄まし顔をしている。一見クールだけど実は無自覚おバカなお嬢様キャラじゃん。何?深遊ちとせさん?
何ならさっきから口直しの出汁に助けられている。お前はお前で終盤味方になるタイプの中ボスかよ。
いよいよ魔境めいてきた。次はどうなる…?
4皿目
ダイス寿司も中盤戦。ここは自分の好きな寿司を惜しみなくプッシュしていく時間帯だろう。考えた末、つぶ貝を選択することとした。残り4人は?
予想していたよりまともだ。一人だけ熱烈な鬼滅推しのいることを除けば、概して良識的な部類のメニューが多い。奴らもこの膨大なメニューの中で、地獄の足並みを揃えるのに苦労しているのだろう。これはチャンス、角の立たないメニューを引いて、恙なくこの場を切り抜けたい。果たして…?
素晴らしい。
まさかここで、真に自分の食べたいものを引けるとは思ってもみなかった。運ばれてきたつぶ貝、きらきらと輝く表面にあのコリコリした食感を既にして思い浮かべながら、醤油を垂らしていく。
4皿目にして初めて醤油を使うことができる、その喜びをかみしめる。思えば出汁にイベリコ豚にチェダーチーズ、およそ寿司の二文字からはかけ離れたラインナップをかまされ続けた身にあって、ようやく口にできるれっきとした魚介である。
非難されているが知ったことではない。つぶ貝を口に運ぶ。
うまい。噛み締めるごとに貝特有のうまみが口の中いっぱいに広がり、そこに醤油と酢飯が絶妙なバランスで絡み合う。これが真のマリアージュ、寿司の目指すべき真の調和である。聞いてんのかお前のことだぞチェダーチーズ天。
しかし良いことは続くものではない。そのまま二貫目を口に含もうとしたその瞬間、私はチャット欄の表示に目を疑った。
なんか来た。
人が増えた___意味するところは明白である。ダイスは5面から6面に、選ばれる確率は1/5から1/6に。つまりそれは、まともな寿司をチョイスできる可能性が、これまで以上に低下するということである。
加害者(飛び入り)
- のこ(@NOCO_1002)
またこのタイミングになって、私はもう一つ問題を抱えていた。出汁が、最初に頼んだくら出汁が、重いのだ。
ここまで私は出汁を口直しとして、ちびちびと飲みながら他の寿司をやっつけていた。その方が味としても、胃としてもダメージは低いだろうと考えたのだ。しかしながら持ち帰りのコーヒー一杯分はゆうにあろうかという出汁の量は私の胃に静かにダメージを与え続け、4皿目も終わろうかという頃にはたっぷんたっぷんに成り果てていたのである。
液体が怖い。口直しに最適であるはずの液体が最大の敵となる、予想だにしなかった展開が幕を開けてしまった。
恐怖の六面ダイスが今、振られる___。
5皿目
改めて番号が振りなおされる。
- たぎょう - 1
- こばると - 2
- みゃーこ - 3
- ういお - 4
- haxibami - 5
- のこ - 6
5/6が悪意、その事実にあらためて愕然とする。ここからは一分の隙でも見せようものなら、付け込まれてめった刺しにされる___その覚悟で臨まなければならない。
ここでは海鮮細巻きをチョイス。無難なメニューで出方を伺う。
また一人消えてるがもういい。大方昼飯作ってるんだろ。
目を疑った。突然の甘味を繰り出すこばると、液体責めに余念がないみゃーこを差し置き、最後の良心を提示してきたういおも霞むレベルでヤバい手札を無邪気に切るものが一人いる。二度目のくら出汁、のこである。
奴のことだからどうせ、これまでの流れも特に踏まえず目についた変なメニューを適当にチョイスしたに違いない。それで一発目が被るんだから大したものである。ダイスで人の胃袋を混沌に陥れようというようなクズどもの考えることはみんな同じらしい。これだけは意地にかけても引いてはならない、さもなくば胃袋が水槽になってしまう。会計の際に目の前の客の体内からチャプンチャプン音がしたらみんなビビる。嫌だ。
意地と名誉をかけた運命のダイス、結果はいかに…?
チャプン。
チャプン…………チャプン…………
チャプン……………チャプン……………チャプン……………チャプン……………チャプン……………チャプン……………チャプン……………チャプン……………チャプン……………チャプン……………チャプン……………チャプン……………チャプン……………チャプン……………チャプン……………チャプン……………チャプン……………チャプン……………チャプン……………
チャプン。チャプンチャプン、チャプンチャプンチャチャチャプンプ。プンプチャ、パチャンプチャンプチャプン___プチャプンチャ___プッチャ、プ、プチャチャ。
プチャッチャ、チャプンチャプンプンチャチャプンチャッチャ、プッチャンプ。プチャ、プチャチャ、チャプチャププッチャププッチャッチャ。チャ…?
6皿目
私は寿司屋に来ると後半はだいたい味噌汁やらサイドメニューやら寿司以外のものを注文する癖があるのだが、今回もその欲求に従うこととした。納豆でいく。
2. あら汁(こばると)
3. プレミアホットラテ(みゃーこ)
4. 乳酸菌ウォーター いちご【禰豆子ver.】(ういお)
5. 天然魚ユッケ軍艦(haxibami)
6. 乳酸菌ウォーター メロン【炭治郎ver.】(のこ)
液体が増えた。終わりか?
先程から幾度となくプッシュされている鬼滅の刃フェア限定商品に加えてホットラテ、それから液体としても最も重いと思われる味噌汁がここへ来て登場している。奴らもそろそろ牙を剥いてきた。
自分の選択肢、あるいは唯一の良心であるhaxibamiのユッケ軍艦に懸けるしかない。ダイスが今、放たれる___。
最高。
来た。
出汁地獄と化した卓上に舞い降りるユッケ軍艦はまるで、アンドロメダを救いに来りしペルセウス、さもなくば啓典の民を引き連れ海を割りしモーセのようにその荘厳なたたずまいを忘れることなく、もの静かに鎮座している。食す。
うまい。寿司というには多少癖の強い味であり、慣れていなければ首を傾げたくなる気もするが、ユッケの味そのものに親しんでいれば特に何ということもない。味付けされたマグロに玉子がまろやかに絡み、そこに酢飯の酸味が締まりを加える落ち着いた味わいだ。
観客席からはブーイングが飛ぶが知ったこっちゃない。何が「普通」だこっちは普通に寿司を食いに来たんじゃ。
haxibamiに感謝。しかし彼はなぜこのチョイスを…?
認識の相違だった。
好みの広さは人を救う。皆さんも好き嫌いは無くしましょうね。
7皿目
教訓を得たところで次の皿。
くら出汁に殺されかけ(そして、現在進行形で死にかけ)はしたものの、つぶ貝の辺りから明確に風向きが良くなってきている。ここは流れに乗り、寿司の王様、寿司の大本命へと駒を進めるべきだろう。極み熟成まぐろ、ここは君の出番だ。
2. ストロベリーシェイク(こばると)
3. あおさ入り 味噌汁(みゃーこ)
4. とうもろこしのかき揚げ(ういお)
5. あさり入り 味噌汁(haxibami)
6. プレミアアイス珈琲(のこ)
狂人どもの足並みが確実に揃ってきた。
4/6が液体なのは相変わらずだがここへ来て味噌汁が増え、残るういおもとうもろこしのかき揚げとかいう子供用天ぷらみたいなメニューを引っ張り出してきている。なんで寿司屋にとうもろこしのかき揚げがあるの?
疑問を呈していても仕方がない。己の選択のみを信じ、インターネットの海にダイスを投じる___。
生殺与奪の権を他人に握らせるな!!
_____冨岡義勇、「鬼滅の刃」第一巻にて
勝った。
義勇さん、勝ったよ、俺。
マグロだ。食う。
説明不要。うまい。日本人なら誰にでも伝わる、マグロの赤身の旨さだ。安心と信頼、懐かしさすら覚える味わいが五臓六腑に染み渡る。俺は今、自分の意思で選んだ寿司を、自分の意思で食っている。誰も止める者はいない。俺は自由だ___無言の叫びが、くら寿司の店内に響き渡った。
例によって飛び交う罵声。botに対する誹謗中傷も溢れているがbotは悪くない。私も悪くない。俺は寿司を選んだ、お前らも選んだ。俺とお前らは勝負し、俺は勝ち、お前らは負けた。俺は寿司を食った。それだけのことである。
今や完全に生き返った。満を持して、次の皿へと向かう。
8皿目
はっきり言って、私は調子に乗っていた。
ここまでの7皿のうち、なんと3皿もを見事に引き当てている。途中くら出汁2杯とチェダーチーズ天に苦しめられはしたものの、マグロやつぶ貝を主軸としたラインナップは概ね普段の私どおりである。選択肢の5/6を悪逆非道の輩どもの占める圧倒的に理不尽なダイスにしては、あまりにも上手くいきすぎていた。
前回のように卓上に助六寿司が出現したり、ソフドリコーナーが爆誕したりすることもなく、色物を挟みつつもここまで概ね平穏に進行してきた今回のダイス寿司。もしかすると、このまま何事もなく終われるのではないか___そんな甘い考えが、次第によぎり始めていた、そんなときだった。
2. お子様軍艦セット(こばると)
3. お子様応援軍艦セット(みゃーこ)
4. ストロベリーチーズシェイク(ういお)
5. シャリコーラ(haxibami)
6. きつねうどん(のこ)
風向きが、静かに変わった。
相も変わらず半数の人間が液体攻めを継続しているがそこではない。残り二つの悪意が、しれっと趣向を変えて「お子様セット」系統のメニューを推し始めた。何かが、ある。
とはいえ私はまだ、甘く見ていた。寿司屋のお子様セットなんてたかが知れている。マグロにサーモン、いくらにかっぱ巻き、あとは適当にゼリーでも乗っかっているのだろう。「お前の舌はお子様」と暗にバカにされているようなのは多少ムカつくが、寿司が食えるだけ全然ましである。実質3/6が当たりと言っていい。
これまでそうしてきたように、平然とダイスを放る。
本当にお子様セットになってしまった。まあいい。普通の寿司だと思って食お___
えっ
まって
待って待って待って なに 何がおきたの 間違い?
間違いではありません。これが正真正銘…
「お子様応援軍艦セット」です
こばるとはそう言い放つと、自らの注文のために再びタブレットに目を落とした。嘘だろ。
正気かくら寿司。ハンバーグをシャリに乗せ、チェダーチーズを天ぷらにしたこの寿司屋は今、マヨネーズの塊を10コ海苔で巻いて、「軍艦セット」と臆面もなく宣言した。
もはやわざわざ既存の食品を組み合わせたり、火を加えたりするような小細工すら存在しない。ただありとあらゆる食材をマヨネーズの海に沈めただけである。この圧倒的白濁の前には、全てが無に等しく見分けすらつかない。最後の良心と言わんばかりに刺さったきゅうり片すらか弱く痛々しい。これ全部マヨ。マヨネーズのガイガーカウンターがもし存在したらマヨ米国とマヨロシアが最終マヨ戦争を起こしたと勘違いして地中深くのマヨシェルターで人類滅亡までマヨ漬けの生活を勧めるくらいにはマヨ、マヨなのである。
「お子様応援軍艦セット」とかいうネーミングセンスもわけわからん。「ファッキンデブクソガキ御用達ファッキンマヨマウンテンウルトラナイトフィーバー」とかだろこれ、いやファッキンデブクソガキでなくてもマヨネーズ系軍艦の好きな子は沢山いるだろうしいいんだけどさ、それでなくても「マヨ」の二文字はどっかに入れろよ、何度でも言うけど「お子様応援軍艦セット」だぞこれ、そのネーミングでこれがまかり通るならもうなんだってありだろ。
さっきも言ったけどここまでアホのメニューをしれっと出しておいて「普通の寿司屋ですが何か?」のすっとぼけを崩さないのがこのくら寿司とかいう魔境なのである、お嬢様、失礼ですがおひとつ掌底を献上させていただきとうございます、執事より、たとえ深遊ちとせさんであってすらもさすがに怒るぞ、ていうかどこが「応援」なんだよ、それともひょっとしてあれか?煽ってる?
本当に発狂しそうになった。発狂の要因はまだある___というか次がもう私にとってはほぼ止めの一発である。
マヨが、苦手なのだ。
マヨが苦手。正確に言えば、マヨと白米の組み合わせが許せないのである。いわゆる「マヨご飯」なんてもっての外だし、ツナマヨおにぎりなんかも食べられない。当然チキン南蛮はご飯のお供にはならないし、時々ある「たこ焼き味ふりかけ」みたいなのも使えない。勿論それらを好んで食べる方々を非難したり中傷したりする意図はない。ただただ個人的に、苦手なのだ。
そういうわけで、このマヨ偏差値5000兆くらいありそうな酢飯と海苔とマヨの三重奏曲胃嘆弔を前にして、私は完全に頭を抱えてしまった。
マヨ十貫は、無理だ。
目の前に「ギブアップ」の五文字が浮かんだ。考えてみれば、私は寿司屋で何をやっているのだ。他のテーブルを見渡せば、みんな好きな寿司を選んで楽しそうに談笑しているのが見える。白一色の軍艦を前にうなだれているのは自分だけだった。
また流石にそうなるとは思わなかったが、もし無理して詰め込んだ挙句戻したりするようなことがあれば、もはや自分たちだけでは済まず店に迷惑をかけることとなる。そうなれば次回以降のダイス寿司も危うい。少なくともDiscordの向こうの奴らには同じ目に遭ってもらわねば気が済まないというのに。
奴らのことだからこの身の程をわきまえた謙虚な振る舞いが「降伏」「敗北宣言」と捉えられ、あまつさえ「貸し1」などと言われてさらに過酷な目に遭わされる可能性も否定できなかったが、背に腹は代えられない。ここは潔く身を引き、白旗を掲げる準備を_____
人にはどうしても退けない時があります
_____???、「鬼滅の刃」第十巻にて
ハッ…!
声が、する。
どこだ。地獄と成り果てたテーブルのどこかから、確かに私を呼ぶ声がする。
どこだ。探せ。そこに君はいるんだろう。
どこだ。出汁の海、マヨネーズの池、積まれた皿をかき分け、私を捉えるその声、私にだけ聞こえる声、それは今、どこから______
炭治郎ッ…!!
もうおわかりだろう。
普段は皿を5枚集めてようやくチャンスの巡ってくるくら寿司の「びっくらポン!」だが、お子様向けということでそれが確定で付いてくるメニューも存在している。その一つがこれ、「お子様応援軍艦セット」なのだ。
奇しくも鬼滅コラボの真っ最中、この古代マヨ文明にひょっこり付いてきた小さなカプセルの中から、彼___炭治郎はずっと見守っていたのだった。私の混乱、私の発狂、私の嘆き、それから私の絶望までも。
そして私がまさに燃え尽きるその瞬間、彼は私を呼んだ。
私を諦めさせないために。
私を奴らのいいようにさせないために。
私を、もう一度奮い立たせるために。
そうだったのか…
違うよ
ごめん___そして、ありがとう炭治郎。
俺、もう一度やってみるよ…苦しい、どうにもならない、死ぬこともできない絶望だけが支配する戦いかもしれないけど、やれるだけやってみる。
きみは生きろ。やることがあるんだろう?僕は今日まで君のことをよく知らなかったし、これからも知らないままだろう___だけど、今日という日のことを僕は忘れないよ。
それでも、もし僕が奴らに勝って、生きてここに帰ってきたら……その時は___
___一緒に、笑おう。
覚悟は、十分だ。
二度と白旗を見せることはないだろう。たとえそれが全ての終わりでも。
悲哀が、絶望がこの身を貫こうとも、あらゆる惨劇が身を貫き、あらゆる涙が脳を焼こうとも、私は決して振り返らず、倒れだってしない……!!!
____反撃が、今始まる。
あ、次行きまーす
9皿目
まだマヨ十貫がまるまる残っている状態ではあったが、どうせ時間がかかるということで次のターン。まともな寿司が食べたい、その一心で中トロ一貫をチョイスする。
2. りんごのパフェ(こばると)
3. チキンカツカレーうどん【あおさ入り赤だしセット】(みゃーこ)
4. リンゴジュース(ういお)
5. お出汁 たこ焼き(haxibami)
6. ブロッコリーサラダ(のこ)
悪意のフルコースが出揃った。このタイミングで前菜をチョイスしてくるのこに、全くの同タイミングでデザートを選んでくるこばると。液体漬けの手を一切緩めないういお、序盤に上がったくら寿司特有のアホ色物選択肢を蒸し返してくるhaxibami。そして極めつけと言わんばかりに、アホメニューと液体拷問の豪華欲張りセットをここぞと出してくるみゃーこ。流石、一切手抜かりがない。
もうどれをとっても地獄だが、炭治郎と誓いを交わした身。一歩も後へは退けない、さあどうなる…?
チャプン…
魔法陣みたいになった。モンスターズ・インクにこんな感じのキャラいた気がする。ご覧の通りマヨは二貫しか進んでいません。本当に助けてくれ。
液体地獄がまた始まる…と思いきや、ここで嬉しい事実に気付く。
りんごジュースとマヨの相性がすこぶる良い。マヨのあの独特の酸味、口の中に広がる味わいを、りんごジュースが爽やかに洗い流してくれる。おなかタプタプも、その清涼感によりほとんど気にならない。むしろもっと飲みたいくらいだ。
敵であるはずのものに助けられる、意外な展開になった。敵兵すら利用し自らの利とせよ___これも炭治郎の教えかもしれない。違うとは思う。
なお、ここで胃の残り容量を鑑み、残り5ターンとした。少し早いが、さっきのように重いメニューを連投されると最悪の場合完食すら危うい。我ながら賢明な判断だと思う。
10皿目(残り5皿)
ここからは終盤戦。胃の容量との勝負であるのはもちろん、脂の回った身体にこってりしたものは入り辛くなってくる時間帯だ。うまく軽めのメニューに誘導しつつ、デザートなど仕込んで締めの口にしていきたい。あとマヨ。
初手にはホタテ一貫を選択。果たして彼らのチョイスは…?
2. あんかけ蟹うどん(こばると)
3. くらポテト【ケチャップ】(みゃーこ)
4. 胡麻香る担々麺(ういお)
5. 胡麻香る担々麺(haxibami)
6. くらポテト【コンソメフレーバー】(のこ)
収拾がつかなくなってきた。なんだこのビュッフェでふざけ倒す小学生男児みたいなテーブル。
名誉のために言っておくと、ポテトは美味い。第一なんにでも合う。マヨとりんごに続く第三の味覚が加わったことで三角食べ(?)が完成し、食は進み、マヨに関しては残すところあと一貫というところまで来た。胃にアホほど蓄積することを除けば、ポテトとはそれほど偉大なのである。
そして。
ついにその時は来た。
勝ったよ、炭治郎。
とうとうマヨに勝利した。思えば私に止めを刺そうと注文されたりんごジュースとポテトに助けられるという、予想だにしなかった展開となった。諦めなくて本当に良かったと思う(貸しを作らないという意味で)。
私は屈しない、私には味方がいるという強い意思表示のために、同じ画像をDiscordにアップする。
そう。実を言えば、炭治郎も私も、一人の妹を持つ長男なのである。
長男は強い。一人は鬼と化した妹を救うべく長い旅路を歩み、もう一人は好き嫌いマシンと化した妹の残り物を処理しているうち、強靭かつ柔軟な胃袋を手に入れた。太った。
マヨは、本当に辛かった。
しかしそれすら平らげた私にとって、もはや碌に敵となるものもそうはいまい。奴らも怖気づいているはず、そう思ってDiscordを開くとそこに映し出されていたのは衝撃の会話だった。
これを見て完全に理解した。こいつらは、人間ではない。鬼だ。
一人の人間があれほどまでに苦労し平らげた飯を、まるで他人事かのようにもう一度注文させようという魂胆ができるのは鬼しかいないはずである。この私、鬼滅の刃を鑑賞したことは今までに一度もないが、鬼を何らかの形で倒す話だというのは大体予想がつく。炭治郎、私はいま本物の鬼を見つけた。きみが屠るべきはこいつらだ。
とはいえここは勝負の場。なんとか鬼どもをなだめすかし、少しでも有利な条件でダイスを振るために、ここで私は追加ルールの提案をした。そこで決定したことは概ね以下の通りである。
追加ルール
- 残りは4ターン。
- うち3ターンは、注文内容になんらかの縛りを設ける。
- 縛りの内容は一人一つ提案ののちダイスを振って決定。
- 最後の1ターンだけは、全てリセットの上縛りなし。
最後の1ターンにガチンコ勝負を許したのは苦渋の決断だったが、こうでもしないと穏便には行かなそうだったので致し方ない。前回のこばるともここは同様だったこともあり、不安を抱えながらも承諾した。
ここからが本当の終盤戦。ダイスの、そして私の運命は如何に…?
11皿目(残り4皿)
まずは縛りを決める。前述の通り、縛り内容は寿司と同じようにダイスを振り決定することとなる。
長かったこの戦い。そろそろ締めの味覚に仕上げていくため、ここはまず無難にデザート縛りを選択。はたして鬼どもの考える縛りは…?
2. 液体縛り(こばると)
3. 揚げ物縛り(みゃーこ)
4. 魚を含むもの縛り(ういお)
5. 文字数8文字以上縛り(haxibami)
6. 米を含むもの縛り(のこ)
各々の趣向がかなり綺麗に分かれる形となった。
液体縛り、揚げ物縛りといった見え透いた地獄についてはもうこの際置いておくとして、興味深いのは残り3人である。魚入り、米入りなどは順当に寿司を選ぶチャンスのありそうなものだし、haxibamiの「8文字以上」に関しては意図するところがよく読めない。ひょっとしてやたら名前の長いサイドメニュー群に目を付けている…?いずれにせよ何か企んでいるのは、全員ほぼ間違いないのだ。心してかかる。
流石に1は出なかったが、一見かなり丸そうな選択肢に落ち着いた。ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、不穏な会話が目に入る。
怖すぎ。どうやら私にまともな寿司を食わせる気は一切ないらしい。嫌な予感がしたため、こちらもさっさと選ぶこととした。
ここはオーソドックスに、鉄火巻を推すこととする。
ここまでの経過からして、奴らは間違いなく何か企んでいる。ここへ来て例のマヨのような正気の沙汰とは思えないメニューの選択されないことを祈りつつ、選択を開示。どうなる…?
2. あら汁(こばると)
3. 7種の魚介 追いかつお醤油らーめん(みゃーこ)
4. 7種の魚介 追いかつお醤油らーめん(ういお)
5. 7種の魚介 追いかつお醤油らーめん(haxibami)
6. 7種の魚介 濃厚味噌らーめん(のこ)
待って。とんでもないことになった。
ここへ来て、サイドメニューの中でもトップクラスに重い「7種の魚介らーめん」シリーズが、「魚介」の二文字を引っ提げて登場してきた。最初から魚介推しのういおはともかく、残り3人はこれを見つけたとき嬉しさでさぞニヤニヤが止まらなかったことだろう。殴るぞ。
とはいえこの際それはいい。問題なのは一人残ったこばるとである。
何?あら汁って。肩透かしもいいところである。他4人がきっちり足並みを揃えている中、一人だけこれまでに出たメニューでお茶を濁しているのは痛々しくすらある。彼のことだからどうせ液体攻めのことしか念頭になく、碌にメニューも眺めずにこんなもんだろうと甘えたのだろう。
皆さんは前回のダイス寿司を覚えているだろうか。未読の方は見てきてほしい。こばるとは私が終盤に出した選択肢「たくあん巻き」に対して、「スカシ」「最悪」「ネタにもならない」「真面目に勝負もできない」「またそうやって逃げるんだな」「お前はね、一生そうやって死んでいくよ」などと罵倒の限りを尽くした。それがどうだ、当の本人が、同じ状況で同じスカシをかましているのである。こうなってくると笑い者にすらならない。人を呪わば穴二つとはこのこと。もはや哀れである。
言い訳にもなっていない。ただただ最悪である。
こうなるともう、液体とかは置いておいて是非とも「あら汁」を引きたくなるのが人間の性分というものだ。これだけの醜態を晒させておいて生き永らえさせているのも酷である。さっさと墓に埋めてやらねばなるまい。
ダイスの赴くところは如何に…?
普通~にラーメンが出た。まあそうよね。
致し方ない。こばると、君の息の根はそのうちちゃんと止めてやるからな。
正直腹の容量がヤバいが、残り3皿。なんとか耐えていきたい。
12皿目(残り3皿)
再び縛りダイスが決行される。ここはなるべくボリュームの低いメニューしか選べないようにするため、値段で縛ることを選択。200円以下縛りとした。
2. デザート縛り(こばると)
3. 230円以上縛り(みゃーこ)
4. 200~300円縛り(ういお)
5. 200kcal以下縛り(haxibami)
6. 硬貨4枚以下で払えるもの縛り(のこ)
どういうわけか値段縛りが多く集まる結果となった。私の200円以下に対し、みゃーこの230円以上があまりに対照的であるのは面白いが、厄介なドベはこのくらい。デザート縛りも少し早いが悪い気はしないし、カロリー縛りも良心的。一人だけ算数の問題みたいなやつもいるが、縛り2回目は概して優しい状況となった。
とはいえ残りは3皿、嵐の前の静けさの可能性は大いにある。心しつつダイスを放る。
なんとも言えない価格帯。普通に考えてマヨレベルの爆弾が控えているとは思えないが、くら寿司のことだからまた地雷を仕込んでいる可能性もある。先行きの見えない結果となった。
200~300円ともなれば、寿司の中ではある程度のものが食べられる価格帯だ。目についた丸ズワイガニを手札とする。
2. 濃厚ガトーショコラ(こばると)
3. 揚げたて豆乳ドーナツパフェ(みゃーこ)
4. 乳酸菌ウォーター いちご【禰豆子ver.】(ういお)
5. シャリコーラ(haxibami)
6. 乳酸菌ウォーター いちご【禰豆子ver.】(のこ)
意外な展開になった。
普通にうれしいラインナップ。私を除き全員が甘味か清涼飲料水をチョイスしており、完全にデザート合戦の様相を呈している。大方あと2皿を残した状態で締めの味覚にしてやろうという魂胆なのだろうが、ぶっちゃけ割と有り難い。そもそも甘味は別腹派の人間なので満腹になりかけた胃にも優しいし、前述の通り普段から妹の残り物処理班を担当している身。甘味のあとにまた普通食などは日常茶飯事なのだ。
ボーナスステージと化してしまった。いいのか…?と首を捻りつつも、ダイスの女神を呼び起こす。
来た。
C'est bon.
しっとりと濃厚な甘みが口の中に広がる。それでいてしつこすぎず、あくまで端正で上品なたたずまいを崩さない大人の味わい。甘味はりんごジュースで既に一度摂取していたが、それとはまた違った救いがある。残り2皿を戦い抜く、その闘志を静かに燃やす戦士の休息のために用意された、ささやかな歓びである。
元気になった。次に行こう。
13皿目(残り2皿)
縛りプレイもこれがラスト。正直もう普通の料理は入りそうにないので、デザート縛りをプッシュしていく。
2. 甘いもの縛り(こばると)
3. 揚げ物縛り(みゃーこ)
4. 揚げ物縛り(ういお)
5.お持ち帰り不可縛り(haxibami)
6. 200kcal以上縛り(のこ)
こばるととほぼ被った。もうすぐ終わりだし甘味の気分だって話しただろ。お前さっきの反省してる?失敗から学ばない人間ほど愚かなものはないんだよ、それとも今更良心枠気取りか?騙されんぞ。
その点揚げ物縛りで被っているみゃーことういおは抜かりがない。今の僕に最も辛いものを的確に見抜いてきている。いささか緊張しながら、ダイスを振ることにした。
お持ち帰り不可。ラストの縛りとしてはいささか変則的で方向性が見え辛くもあるが、これはこれでアリだろう。そう思いつつメニューを開いた私は、あることに気付く。
明らかに広いのである。
くら寿司のメニューには持ち帰り不可がかなり多く、しかも特定のジャンルに偏らずまんべんなく存在している。これでは縛りの体をなさず、縛り無しのガチンコ勝負とほとんど変わらなくなってしまう。
他のメンバーもそれに気づいたらしい。合議の末、持ち帰り不可に加えてもう一つ縛りを設けることとした。
ラストのためとかいう不穏な文言が気になるがまあいい。もう一度ダイスを振る。
よしよし。これでかなり狭まったうえ、またデザートが食べられる。極めて順調だ___そう思った矢先、一人が恐ろしいことを言い出した。
?????
後から縛りを拡張されかけるパターンは何度かあったが、今回のは特に酷い。何が多数決だ、そりゃここで多数決すればお前らが勝つだろ。自民党かよ。
というかデザートに含まれない甘味って何?いくらくら寿司でもそんなメニュー存在するわけ___
2. りんごのパフェ(こばると)
3. とうもろこしのかき揚げ(みゃーこ)
4. りんごとカスタードのパフェ(ういお)
5. ひんやり大盛りパイン(haxibami)
6. とうもろこしのかき揚げ(のこ)
___あったわ。
思い返せば7皿目、ういおにより一度だけプッシュされたとうもろこしのかき揚げ。私が見事マグロを引き当て、その後のマヨショックもあり完全に忘れ去られたはずだったメニューが今、反則すれすれ(というか反則)のルール改正を経て帰ってきた。
みゃーこは確かに、縛りリストに揚げ物を推していた。それが撥ねつけられ諦めたものと思いきや、ルールを捻じ曲げてまで揚げ物を突っ込んでくるその見上げた根性には呆れを通り越して敬服してしまう。さすが間違いなくこの中で最も人の不幸を美味しく頂く外道のだけはある、この好敵手の振る舞いに、さしもの私も拍手を送らざるを得なかった。
しかしながらこれはダイスの出目に全てを委ねる神聖な儀式。厳かに祈りを捧げ、今、ダイスを放つ___。
私の、勝ちである。
ひんやり大盛りパインは、なんと私のチョイスと同一。一気に2/6まで跳ね上がった勝利確率の中、恙なく引き当てることに成功した。さらに言えば、ういおとこばるとの推していたパフェ系統も特に地雷ではない。さっきも言ったが甘味は別腹。パフェの一杯ごときなんてことないのだ。
そういうわけで12皿目とほぼ同様、かなり勝ちやすい状況での勝利となった。仕方がない。反則レベルの縛り改正をしておいて、その意図するところに気付けない方が悪いのである。
パインはおいしかった。
さあ、次が最終決戦。全てを出し切り、全力で挑んでいこう。
14皿目(ラスト)
思い返せば、ここまで長かった。
参考までに、これまでのラインナップをまとめておこう。
2皿目:イベリコ豚の大トロ
3皿目:チェダ―チーズ天寿司
4皿目:つぶ貝
5皿目:くら出汁
6皿目:天然魚ユッケ軍艦
7皿目:極み熟成まぐろ
8皿目:お子様応援軍艦セット(マヨ)
9皿目:りんごジュース
10皿目:くらポテト【コンソメフレーバー】
11皿目:7種の魚介 追いかつお醤油らーめん
12皿目:ガトーショコラ
13皿目:ひんやり大盛りパイン
初手のくら出汁に泣かされたのが、どこか懐かしくすら思い返される。前半はイベリコ豚につぶ貝、マグロなど見事な運の勝利が光ったものの、チェダーチーズ天や2杯目のくら出汁に叩きのめされもした。そしてマヨである。これは炭治郎がいなかったら本当にどうなっていたかわからない。ありがとう吾峠呼世晴先生。
後半はマヨ、そして胃の容量との戦いになりながらも、りんごジュースとポテトをなんとか強みにし耐え抜いた。そしてラーメンを越えた後は、デザート2つを上手いこと引き当て風向きは完全にこっちへ来ている。このまま勢いで、ラストのガチンコ勝負を乗り切っていきたい。
最後は一切の縛りなし、全メニューリセットでの戦いである。奴らも思い思いの悪意を全力でぶつけてくるだろう。真剣勝負の時間だ。
悩んだ末、ストロベリーシェイクを選択。このデザートに、全てを懸ける。さあ、どうなる……?
2. お子様軍艦セット(こばると)
3. お子様応援軍艦セット(みゃーこ)
4. お子様軍艦セット(ういお)
5. お子様応援軍艦セット(haxibami)
6. お子様応援軍艦セット(のこ)
は?
____全ての悪意が、火を噴いた。
嘘だろ。画面の前でリアルに呟いてしまった。今ダイス寿司で私を苛め抜こうとしている全員、自分を除く全員が、私にアレを食べさせようとしている___マヨを、今回私を最も苦しめたあのマヨを。
あの白、皿に盛られた十貫の白い悪魔の映像が脳内にフラッシュバックする。それは一貫ごとに私を苦しませ、悶えさせ、のたうち回らせた___少なくとも炭治郎がいなければ、私は確実に死んでいただろう。では次も彼の力を借り、乗り切ることができるか?無理だ。第一、もう胃の容量が残っていない。普通の寿司を十貫食べるのも不可能だろうという状況で、マヨに勝てるわけがない。
縋るような気持ちで目の前のこばるとの顔を見る。しかし彼は、不気味な笑顔でニタニタとこちらを眺めまわすだけだった。鬼、悪魔、ろくでなし___あらゆる罵倒は彼、そして彼の忌むべき同胞たちには通用しない。彼らは私に、マヨを食べさせることを選択した。その事実は、最早どうしようもないのである。
では、絶望か?____否。
まだ、一縷の望みが残っている。他ならぬ私自身の選択、私自身の望みがここにある。私はこう望む___「私はダイスで1を出し、ストロベリーシェイクを注文して飲み干したのち、颯爽と会計を済ませて店を出、十一月の秋風に浸る」と。たった1/6の望みに他ならない、どうしようもなく苦しい闘いにあっても、私は決して己を見失いはしない。あの日、炭治郎と誓った___そう、彼がいなくとも、私は自分の二本の足で、大地を踏みしめ立ち上がることができるのだから。
右手を高く掲げ、左手でチャット欄に「1d6」と打ち込む。息を大きく吸い、静かに瞑目する____
そして次の瞬間、私は送信ボタンに右手を振り下ろした。
O Freunde, nicht diese Töne!
______L. v. Beethoven, Sinfonie Nr. 9 d-moll
Freude, schöner Götterfunken,
Tochter aus Elysium
Wir betreten feuertrunken.
Himmlische, dein Heiligtum!
Deine Zauber binden wieder,
Was die Mode streng geteilt;
Alle Menschen werden Brüder,
Wo dein sanfter Flügel weilt.
Wem der große Wurf gelungen,
Eines Freundes Freund zu sein,
Wer ein holdes Weib errungen,
Mische seinen Jubel ein!
Ja, wer auch nur eine Seele
Sein nennt auf dem Erdenrund!
Und wer's nie gekonnt, der stehle
Weinend sich aus diesem Bund!
Freude trinken alle Wesen
An den Brüsten der Natur;
Alle Guten, alle Bösen
Folgen ihrer Rosenspur.
Küsse gab sie uns und Reben,
Einen Freund, geprüft im Tod;
Wollust ward dem Wurm gegeben,
und der Cherub steht vor Gott.
Froh, wie seine Sonnen fliegen
Durch des Himmels prächt'gen Plan,
Laufet, Brüder, eure Bahn,
Freudig, wie ein Held zum Siegen.
Seid umschlungen, Millionen!
Diesen Kuss der ganzen Welt!
Brüder, über'm Sternenzelt
Muß ein lieber Vater wohnen.
Ihr stürzt nieder, Millionen?
Ahnest du den Schöpfer, Welt?
Such' ihn über'm Sternenzelt!
Über Sternen muß er wohnen.
"An die Freude"
F. v. Schiller
短歌募集のお知らせ(終了しました)
この企画についての募集は終了しました。現在記事を執筆中です。公開までしばらくお待ちください。
改めまして皆さん、こんにちは。たぎょうです。
最後までご覧くださり誠にありがとうございます。吾峠呼世晴先生並びに「鬼滅の刃」関係者の皆様、ファンの皆様、L. v. Beethoven様、F. v. Schiller様、そしてくら寿司様、誠に申し訳ありませんでした。
さて、この度私ども横浜市交通局では、皆さんより「和歌」の募集をさせて頂きたく思っております。一年の終わりにカスみたいな和歌を詠み合う「歌会終」と題しまして、皆さんより渾身の一首をお待ちしております。
- クリスマスということで、テーマは「聖なるもの」。
- 募集フォームは下記リンクです。
- 優秀作品、及び味のあるカス作品につきましては、このブログにて記事化の上で発表とさせていただきます。
- 現在のところ募集期間は未定です(決定し次第、こばるとのTwitter及びこちらに掲載します)。12/17(金)24:00を締切とします。
- 基本は匿名での応募となります。真面目な作品で雅号付きの掲載を希望される場合のみ、作品の後ろにスラッシュで区切る形でお書きください。
- またその他ご不明点がございましたら、こばると(@428sk1_guadian)まで。
皆様の参加を、お待ちしています。
【応募フォームはこちら】
【優秀作品の掲載イメージはこちら(変わるかもしれません)】
【カス作品の掲載イメージはこちら(変わるかもしれません)】
最後までお付き合いいただきありがとうございました。それでは。